2015年10月18日日曜日

平河町ミュージックス第35回 荒井英治  無伴奏ヴァイオリン in ROGOBA Ⅱ を聴いた

公演前日と、金曜日当日の公演前
荒井英治は、念入りにヴァイオリンと向き合い、
その音色が届くところに、奥様の姿があった。



開演
絃に弓が触れ、重く、しかし、艶やかな音が空気を震わせる。
作曲家がイスラエルを旅した直後に書いたという曲は、
空間をユダヤ的な不思議な色彩に染め上げた。
アンドレ・ジョリヴェ:ラ プソディ組曲より
B-アリア & C-インテルメッツォ


心の内面から出てくる叫び声に似た響きからはじまった。
民衆のエネルギーを取り込んだ民族音楽のような旋律に続き、
震えるような激しい弓さばきから はじき出される音 に圧倒される。
グラジナ・バツェヴィチ:無伴奏ソナタ 第2番



のびやかで穏やかな旋律が、しだいに装飾され、細分化され、変化をしていく。
作曲家高橋悠治が満足気な表情で、客席から荒井の音色の変化を追っていた。
高橋悠治:七つのバラがやぶにさく



休憩のあと
高橋の楽曲がつづく。
その譜面にちりばめられた39もの楽譜の断片。
それらをつなぎ合わせて荒井が音楽を紡ぎだす。
高橋悠治:星火



何かに憑りつかれたような激しい不協和音が響いたかと思うと、
穏やかな旋律があらわれる。
それを幾度となく繰り返す。
高橋悠治:冷たい風吹く地上から



反ユダヤが吹き荒れる不安な時代に生きたヴァインベルグによる
ユダヤ音楽の旋律とリズムが、
理性に満ちた平和な空間を、容赦なく揺らす。
ミチェスワフ・ヴァインベルグ: 無伴奏ソナタ 第2番


さいごに、
美しい小品をアンコール曲に加え、弓を置いた。

荒井は、新星日本交響楽団、東京交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団のコンサートマスターを長きにわたって歴任し、現在、さらにあらたなステージに立って、より多様な音楽活動に挑んでいる。昨年、平河町ミュージックスにも登場し、初演の曲も含め、今回と同様に普段耳にすることの少ない楽曲を奏でた。




聴きなれて耳に馴染んだ旋律は、心を癒し、思考を緩慢にさせるが、
聴きなれない楽曲は、心のひだに引っかかり、
自身に向き合い、妄想にも似た思考を強要する。

「気安く音楽が手に入り、なんの抵抗もなく享受される日常の中で、
音は何のためにあるのか?音楽は何がどれだけ必要なのか?」
昨年のプログラムに記された荒井の文章を思い出しながら、
今日もまた、荒井の深い思索と、紡ぎだす圧倒的な響きを前に、
妄想にも似た感覚がよみがえってくるのを感じた。




平河町ミュージックス実行委員会ワーキンググループ   木村佐近