2015年7月11日土曜日

平河町ミュージックス第33回 福永千恵子 箏リサイタル を聴いた

公演前夜
福永千恵子(箏)が、
田嶋謙一(尺八)と野澤徹也(三味線)とともに現れ、
ていねいに音をあわせていた。







開演
福永の指が絃をはじき、
箏がうたいはじめる。
野のうた その一 / 間宮芳生作曲

大学で教鞭をとり、後進の育成にもあたっている福永が、
穏やかで軽妙な語り口で、野澤と田嶋の輝かしい経歴を紹介し、
そのあいだに楽器が並べ替えられた。

やがて、
三つの楽器が叫ぶようになりはじめる。
断片に切り取られた音が、はじけながら次々に繰り出され、
空気が、緊張感を帯びる。
聴衆は、ひとつひとつの音を聴き逃すまいと、息をひそめた。
断章Ⅰ / 細川俊夫作曲

伝統的な連句の精神や在り方を、
精神の営みの観点から楽曲に反映させたと、
かつて初演のときに語った作曲家の一柳慧が、
客席から、福永の指先を見つめていた。
そして、演奏が終わったとき、満面の笑みでその響きを讃えた。
うつし / 一柳慧作曲

極楽国土の七宝の池には、青い蓮の華に青い光が、
黄色には黄色の、白には白の光を放ち、ありのままに不自然なく咲いている。
阿弥陀経に謳われたその様子を表現した音は、
それぞれの色から放たれる光と芳香のように 降り注いでは消え、
やがて聴き手の心の底に、残響と残り香を堆積する。
そう語った作曲家の権代敦彦もまた、福永に客席から惜しみなく拍手を送った。
青色青光/黄色黄光/赤色赤光/白色白光op.87 / 権代敦彦作曲

布を川水にさらす作業の様子を響きに置き換えた曲。
三つの楽器の音が、小走りに互いを追いかけ、折り重なっていく。
その旋律の先に、
川の流れや、川面に揺れる布、うつろう川辺の情景が浮かんでくる。
さらし幻想曲 / 中能島欣一作曲


福永が語った。
現代邦楽の作品は、高度な演奏技術を要求するものも多く、
初演後、再演する機会に恵まれない委嘱作品がいくつも温存されている。
それらを演奏して世に出すことで、
次の世代に素敵な楽曲の存在を知らせ 残していきたい。
今日は、若い二人の力を借りて頑張って演奏します。
気負わず、しかし箏に正面から全力で向き合う福永の背中を、
田嶋と野澤が見つめる。
現代邦楽の魅力とその精神が、
脈々と受け継がれている気配を感じるひとときであった。



平河町ミュージックス実行委員会ワーキンググループ   木村佐近