2012年10月13日土曜日

平河町ミュージックス第17回 金子飛鳥  音のゆらぎと対話 を聴いた


公演前日
金子飛鳥とゲストの北村聡が
ヴァイオリンとバンドネオンの音をあわせた。
リハーサルだというのに、その響きに鳥肌が立った。






公演のはじまり

暗闇のなかで、
中二階から絃と弓の、こま切れの音が聴こえ、
それが、しだいにつながり、美しいメロディーになる。
聴衆が息をひそめ、
今日の気分を音に変えたという
その旋律を追いかける。
Ama[金子飛鳥]



「今日のテーマは、自由であること。つながること。
大地から育った木々や草を食む羊。木を切り出し羊毛から糸を紡ぎだす。
木が美しい家具に、糸が美しいキリムに、
自分を取り囲むものたちはすべてつながっている。」
と金子は語った。
この空間で感じたそんな気配を金子が音に変えてゆく。
Nymphe[金子飛鳥]
improvisation[即興演奏]




休憩のあと
北村が加わり、
バンドネオンの音色を添える。
シチリアーノ[マリア・テレジア・フォン・パラディス]






ふたりが
中二階に消えた。
とても、ふたつだけの楽器で奏でているとは思えない
重厚なバッハの旋律が、
上から降ってきた。
アレグロ ホ長調 
アダージョ[J.S.バッハ]






ふたりが聴衆の前にもどり、
金子はその場に靴をぬいで、
木のゆかに素足で立った。
ふたたび絃に弓が触れる。
静かな響きがやがて強く激しい音に、
ときには弓が絃をたたく。
曲が終わるたびに、
聴衆がこみ上げるものをこらえるように
溜息をあげた。
Basquelo[金子飛鳥] 
ラ.クンパルシータ



小沼純一が金子に問いかける。
金子が参加する音楽と朗読によるコンサート「星を巡る旅~Le Petit Prince~」のことなど。







Cancion de junio[ホアキン・モーラ]
北村聡の新曲、
リベルタンゴ[アストル・ピアソラ]
とつづく。
北村は新曲のなかで、
異なるリズムを重ね合わせ、
多彩な音を自由に操った。
最後に、
タンゴの情熱的な響き。






聴衆の心からの拍手をうけて
アンコール曲。
金子が歩きながらうたい、中二階を支える柱にもたれる。
リハーサルでは空間の隅々を歩き回っていたのにこの柱がとても気持ちよかったので留まってうたったと、金子は演奏後に語った。
うたごえはいつの間にか絃と弓に移り、
ヴァイオリンの響きに置き換わる。
Earth Turns Eternal[金子飛鳥]




拍手が鳴りやまなかった。
・・・
用意していなかったのに、
戸惑うことなく、
金子はひとりで聴衆の前に戻った。
静かなメロディーをもうひとつ奏で、幕を閉じた。


キリムや北欧家具から自然界とのつながりを感じ取る鋭い感受性と、
対話の隅々に見え隠れする自由な思想と音楽への真摯な姿勢。
自然体で人を飽きさせない魅力的な個性。
それらの上に築き鍛えられた
並はずれた技術と表現力。
それにしても、どうして金子は、
こんなにも色々な音を立てられるのだろうか。
その音に北村が美しい響きを添え、
ふたつの音が生み出す色々な音のゆらぎに、
ここに居合わせた もの や ひと が、
一緒にゆらぎ、対話した、
幸せで濃密なひととき、だった。



平河町ミュージックス実行委員会ワーキンググループ   木村佐近